前編からの続きです。
※画像は病室の写真です。一人一人にクリスマスツリーが飾られていて、退院する時に、プレゼントとして頂きました。
同室の赤ちゃんのママと一緒に泣いた夜
息子が運ばれた病室は2人部屋で、既に1人の赤ちゃんが入院していました。
時間は夜の9時半頃でしたので、赤ちゃんに付き添っているお母さんは、寝る支度をしているようでした。
私は早速カーテンを閉め、邪魔にならないように自分たちの荷物を整理し始めました。
オムツだけにされ、手足にモニターを付けられて息子はベッドに横たわっていました。
こんなに小さい身体で手術を受けることが決定しているのに、親の私にはどうしてやることもできない。
息子に申し訳なくて悲しくて、目から涙がこぼれ落ちました。
何がいけなかったんだろう・・どうしてこんなことになったんだろう・・
私は後から後から溢れる涙をティッシュで拭っていましたが、とにかく隣のご家族の迷惑になってはいけないと思い、声を殺して泣いていました。
するといつの間にかカーテンを開けて隣の赤ちゃんのお母さんが入って来て、後ろから私の肩を抱いて来ました。
「泣きなさい、こんな時はたくさん泣いた方がいいのよ。私もたくさん泣いた・・。」
見るとそのお母さんも泣いていました。
私は初対面の人からそんな風に肩を抱かれて声をかけられて、とても驚いたし恥ずかしかったのですが、隣の赤ちゃんもきっとこの小児病院に入院しているということは、大きな病気を持っているのでしょう。
病気の子を持つ同じ立場の母親同士、しばらく一緒に涙を流しました。
ひとしきり泣くと私も少しスッキリして、そのお母さんと簡単に話をしました。
隣の赤ちゃんはカルガリーから来ていて、心臓の手術で入院しているとのことでした。
私は心臓の病気のことは良く分からないのですが、成長するごとに何回かに分けて手術をすると聞いたことがあります。
生後6ヵ月の女の子でしたが、これまでにも既に手術を受けてきたのかも知れません。
そしてこの先も成長に応じて手術の予定があるのかも知れません。
週末になるとカルガリーからご主人がお見舞いにやって来て、カルガリーの祖父母に預けられているお兄ちゃんと病室でSkypeをして話していました。
病院は大人一人しか赤ちゃんに付き添って泊まれないため、ご主人はマクドナルドハウスに滞在しているとのことでした。
マクドナルドハウスの存在は知ってはいましたが、実際に活用されているのを聞いたのは初めてでした。
自分は突然この境遇に放り込まれたけれど、既に色んな経験をしている家族がいる。
赤ちゃんが健康に生まれ、寝不足と闘いながらも家で赤ちゃんのお世話をし、家族が一緒に過ごせる普通の日常が、どんなに有り難いことなのか。
当たり前のことが、本当は当たり前ではないのだ・・。
実際に子供が病気になり入院して初めて色々と分かることがありました。
実は娘も生後7ヵ月頃に原因不明の感染症で東京都の子ども病院に10日間ほど入院したことがあり、私も付き添いで入院したため、その時にも、子供が普通に生まれて普通に育つことは奇跡だと思ったのですが、いつしかその奇跡をすっかり忘れて過ごしていました。
ちなみに娘の場合は感染症で入院し、感染症専用の病棟だったのですが、息子は心臓・肝臓疾患専用の病棟(heart & liver)でした。
母から聞いたのですが、身体の中で心臓に次いで重要な臓器が肝臓なのだそうです。
なので、「heart & liver」病棟にいる子は、重篤な症状の子が多いのでしょう。
どの部屋も満床でしたが、今思えば赤ちゃんの泣き声がたまにしか聞こえず、静まり返っていました。
隣のベッドの赤ちゃんも、ほとんど泣いていませんでした。
息子は肝臓の病気なのでお腹が空くと声を張り上げて泣いていたのですが、もしかしたら心臓の病気では、赤ちゃんが大声で「泣く」ことすらできないのではないか・・と思いました。
赤ちゃんが元気に泣くことは、本当はとても凄いことなんだ・・。
そして息子の時もそうでしたが、手術直前になると、手術に関わる医師たちがベッドにやって来て、再度彼らから詳細な説明を受け、様々な書類にサインをさせられます。
そういう光景を、この病棟では他の赤ちゃんでも何度も見ました。
今この瞬間も、あの病院には大勢の赤ちゃんが入院していて、それに付き添って一緒に闘っているご家族がいる。
コロナにより院内のオペレーションに様々な制限がある中で、どれだけ不安な日々だろうと思います。
どうか必要な処置を全ての赤ちゃんがきちんと受けられて、みんな元気になって退院できますように・・と祈らずにいられません。
そしていよいよ手術へ
入院の翌日に、「明日息子さんの手術をすることになりました。」と執刀医が挨拶に来ました。
まずは開腹して疑われる病気の確定診断、その病気でなかった場合は他の病気が考えられるため、肝臓の組織片を切り取って病理検査へ出し、速やかにお腹を閉じて手術を終了するため所要時間は1時間程度。
しかしその病気であった場合は、そのまま患部を切除して肝臓と腸のバイパス手術に移行するため、トータルで数時間かかる。
心の準備をしていたとはいえ、小さな身体で数時間の手術に耐えてもらわなければならないのは、親として本当に堪えます。
そして迎えた手術当日、医師から再び手術の詳しい説明を受け、様々な書類にサインをし、手術に備えて息子は絶食に入りました。
母乳であれば消化が良いため絶食時間はミルクよりも少なくて済むのですが、私は母乳の出が悪くミルクがメインだったため、消化に時間がかかるので絶食時間が長いのです。
更に手術の開始が予定よりも遅れ、息子は何時間も空腹で泣いて泣いて、それでも何も与えられず、これが本当に辛かったです。
手術はとにかく緊急度の高い子から行っていくとのことで、順番についてはこちらではどうすることもできません。
空腹で泣き続ける息子をあやしながら祈るような気持ちで手術が始まるのを待ち、やがてようやく息子の番になり、手術室に連れて行かれました。
直前、夫と私で順番に息子を抱っこして、頑張るんだよと伝えました。
そしてまだメスの入っていない息子の綺麗なお腹を写真に収めました。
病棟の飲食スペースで夫と一緒に待機していたところ、1時間ほど経って息子の手術が終了したとの連絡が入りました。
「終わるのが早い!もしかして・・。」
予め説明を受けていた通り、開腹したところ息子はその病気ではないことが分かり、肝臓の組織片を切り取ってからお腹を閉じたそうです。
まずはその病気ではなかったことは、グッドニュースだと医師から言われました。
ただ、引き続き他の原因を探らなければならないので、病理検査の結果が分かり次第、連絡が入ることになりました。
しばらくして息子が手術室から病室に戻って来ましたが、麻酔が効いていてまだ眠っています。
私と夫は隣の赤ちゃんのママに結果を報告しました。
彼女は
「お医者さんの話、聞こえてたわ!良かったわね!」
と一緒に喜んでくれ、
「実は私達、今日で退院できることになったのよ!!イェーイ!!」
とこれまた嬉しいニュースを知らせてくれました。
12月22日の夕方だったので、その日はホテルに滞在して、翌日カルガリーに戻るということでした。
クリスマスを家で家族一緒に祝うことができるなんて本当に良かったと思いました。
娘はこの時、夫の会社の社長夫妻と、私の知り合いの家でお世話になっていました。
我が家はクリスマスは病室確定だな・・と残念でしたが、とにかく一番懸念されていた病気ではなかったことは本当に嬉しく、夫とお祝いするためにその日の夜は外食することにしました。
看護師さんにその旨を告げて夫と外食して楽しい時間を過ごし、そして幸せな明るい気持ちで病院に戻り、夫は家に帰って行きました。
その頃、息子は麻酔が切れて目覚めていましたが、赤ちゃんなのに、術後の痛みに耐えながら、
「ウゥ~・・ウゥ~・・」
と顔を苦痛にゆがめて呻いていました。
開腹手術のためにお腹を切り開いた大きな傷跡があり、縫ったばかりの傷口には血がにじんでいました。
痛々しい姿に涙が出ましたが、とにかく手術が無事に終了したことに安堵し息子のお世話をしていると、看護師さんが術後の状態チェックにやって来ました。
看護師さんは苦しそうに呻き続ける息子を見て、
「可哀想に、傷口が痛むのよね・・。お腹が腫れてるのが気になるんだけど・・でも手術をしたからだと思うから、心配は要らないわ。」
と言っていました。
確かに言われてみれば息子の腹部が盛り上がっていましたが、お腹を切り開いたのだから、腫れてもおかしくないだろうと思っていました。
少しずつ状態も良くなっていくはずだ、私も息子のケアをしっかり頑張ろう・・。
そう思いながら、いつしか私は寝てしまっていたようでした。
・・そしてその数時間後、一生忘れることのできない、恐ろしい事態が息子に起きたのです。
書いていて何度も泣いて中断してしまいます。。
次で終わらせますので、読みにくいかも知れませんがどうぞお付き合いください。